クリニックや薬局の税務調査っていつ来てどこでやるの?

日程や場所は?

クリニックや薬局(又は自宅)に直接来て、書類を調べていく税務調査。
やましいことが全くなくても、できれば来てほしくないですね。

税務調査の連絡は、通常は税務署から直接税理士に来ますが、日程や場所(クリニック・薬局又は自宅)はけっこう融通を利かせてくれます。

税理士側としては、調査を受ける準備やお客様との打ち合わせも必要な為、連絡が来てから大体1ヵ月後位を目安に日程調整します。

調査の日数は、税務署や調査の時期によっても差がありますが、医療法人や株式会社(薬局・MS法人)ですと2日間、個人クリニック・薬局は1日、というケースが多いです。

クリニック・薬局の休みの日に合わせて、「木曜日・翌週の木曜日」など週をまたいだ日程調整が可能な場合もあります。(担当調査官によります。)

時間は、午前10時位に来て、お昼休み(12時~13時の1時間程度)をはさみ、16時30分位に終わることがほとんどです。
調査担当官は必ず外で昼食を食べます。
昼食を準備しても絶対に食べませんので注意しましょう。

一昔前は、調査中、ペットボトルなどの飲み物すら受け取らなかったのですが、今は飲み物位であれば受け取ってくれることも増えてきた為、ペットボトルのお茶程度は準備しておいてもよいでしょう。

経験の浅い調査官が1人で来て、18時過ぎまで行ったケースもありましたが、非常にまれなケースです。
ちなみに、その調査官は、17時過ぎ辺りから頻繁に税務署へ電話をかけ、ひたすら上司に謝っていたのが印象的でした。
上司も、その調査官が税務署へ帰ってこないと自分も帰れない為、「まだか、まだか」と待っていたのでしょう。

税務調査が入りやすいクリニック・薬局はある?

税務調査は通常3期分調べますので、開業・法人設立後3期を経過するまでは通常来ることはありません。

では、3期を経過すると来るのか。
これは本当に様々で、4期目で来たところもあれば、20年以上全く来ず、結局1度も来ないで廃業や事業承継したところもあります。

どんなところが税務調査が入りやすいのか。いろいろな噂があり、
・売上が上がっているのに、利益が減っている。

・少額の赤字で税金を払わない状況が続いている。

・更正の請求をした。

などがよく挙げられますが、クリニック・薬局においては明らかに税務調査が入りやすいクリニック・薬局が存在します。

それは、
・「交際費」の金額が多いクリニック・薬局
です。

クリニック・薬局は、患者さんという個人が相手の業種ですので、きちんと経理処理している場合、通常交際費は多くありません。
実際、「800万円(定額控除限度額)まで使える(損金にできる)んでしょ?」
と思っている方も多いのですが、明らかに税務調査が入りやすくなりますので、注意しましょう。

逆に、持分なしの医療法人でみなし資本金(基本的に「前事業年度の純資産×60%)が1億円を超えている(つまり前事業年度の純資産が約1億6,667万円を超えている)ところは、そもそも飲食代の半分しか「損金」にできない為、上記の理由で税務調査が入ることはまずありません。もし税務調査が入った場合は、別の理由が考えられます。

税務調査で何を調べるの?

クリニック・薬局は、自費診療がメインの場合を除けば、収入の大部分が国から入る保険診療報酬ですので、他業種でよく見られる「収入の計上漏れ」はあまり多くありません。
クリニック・薬局独自の論点も含め、問題になりやすい点をいくつか挙げてみます。

1.前述の交際費

個人的なものを事業の経費に入れていないか。

医療法人や株式会社(薬局)場合、個人的なものと認定されてしまうと、最悪の場合、
A「経費としての否認額」×法人税等の率(25%~30%程度)
B「理事長への役員報酬」×所得税・住民税率(最大55%)
が2重でかかることがあります。

ただ、Bについては、理事長が医療法人へ返済する意志があることをきちんと伝えれば、担当調査官にもよりますが、「役員貸付金」+「利息」とする処理を認めてくれる場合もありますので、交渉次第です。

2.窓口で患者さんから頂く現金の管理

現金を扱う業種に共通することですが、窓口の現金を定期的に銀行に預けるなど、きちんと管理しているか。

窓口の現金収入と銀行に預け入れた金額に大きな差があると、個人の財布と一緒くたになっているのでは、と疑われることもあります。

窓口日計表などできちんと毎日の残高を管理し、どういうルールで銀行に預けているか、説明できるようにしておくことが大切です。

また、患者さんの窓口での負担はほとんどが1割~3割です。
高齢者の割合などにもよりますが、平均すると保険診療収入全体の2割前後になることが多く、この割合に大きな差があると、そもそも窓口現金が合っていないのでは、と疑われる原因となります。


3.内科などの健診や予防接種などの収入

内科系の科は健診や予防接種など、医師会や自治体から入ってくる収入も多いと思います。健診や予防接種を行った翌月に入金があればいいのですが、多くが2ヵ月~3か月後の入金となります。

例えば12月決算ですと、2月末の申告時点でも11月、12月の分が入金となっていない状態で申告をむかえることがあります。

このような場合は、医師会や自治体へ請求した単価や件数をクリニックに確認し、単価×件数で概算未収計上することになります。
入金時に収入計上しているだけ、又は翌月入金分までしか収入計上していないなど、この処理が漏れていることが非常に多いため注意が必要な部分です。

4.自賠責保険の文書料(主に整形外科)

自賠責保険収入がある場合、保険会社などから入金があります。

通帳を見ると保険会社名などの1件(1行)の入金で表示されますが、この中には文書料が混じっていることがあります。

例として
入金:52,534円(内訳:自賠責保険収入:41,534円、文書料11,000円)
のような場合です。

自賠責保険収入41,534円は消費税が非課税ですが、この文書料11,000円は消費税の課税対象となります。

文書料のみの入金の場合は、11,000円など分かりやすいため気づきやすく、自費収入として消費税の課税処理をしている場合が多いのですが、上記のように混じっていると、全額52,534円を自賠責保険収入として消費税の非課税処理をしている場合が見受けられます。

保険会社への請求書類などを直接確認しないと見えない部分の為、非常にミスが多い部分です。

消費税は免税だと思っていたら、税務調査が入って実は課税だった、という話も実際よく聞きます。

5.車の処理

車が減価償却資産に載っていて、保険料・車検・減価償却費などを全額経費としていると、プライベートで使っている部分がないか聞かれます。
プライベートで1台、事業用で1台あれば説明しやすいのですが、担当調査官によっては、実際に車のメーターを見て、否認してくることもあります。

クリニック・薬局の場合、仕事で遠方に行く機会はそうそうない為、突っ込んで聞かれてしまうと、反論が難しい部分です。

車については、全く見ない調査官も多く、調査官次第といった面はありますが、できれば事前に専門家に相談し、プライベート部分は個人から使用料をもらう処理をするなど、きちんとしておきたい部分です。

6.MS法人との取引がある場合

医療法人の理事とMS法人の役員の兼務については、医療法人運営管理指導要綱により都道府県の指導を受ける可能性はありますが、税務調査においてはその部分について問われることはまずありません。

あくまで、取引の実態があるか、取引金額が適正か、という部分が問われます。

・賃貸借取引がある場合は、家賃が適正か、賃貸借契約書があるか。

物件の周辺坪単価等を確認して、相場より高い場合、安い場合は、その理由も説明できるようにしておく必要があります。

・レセプト業務委託やコンサルタント業務などの業務委託契約がある場合は、契約金額が適正か、業務委託契約書があるか。

金額設定の根拠を説明できるようにしておくことはもちろんですが、できれば、毎月どのような業務を行ったか、報告書や議事録などを準備しておくとベストです。
毎月、MS法人から請求書を出すことも忘れずにしましょう。

・物品(医薬品等以外の消耗品など)をMS法人で仕入れ、クリニックへ売却している場合、利益率は適正か。

仕入れた金額の2倍で売却するなど極端な利益率は設定せず、説明できる範囲の利益率にしておくことが大切です。物品の種類や数などによっても異なる為、必ず専門家に相談した上で決めましょう。
こちらも上記と同じく、毎月、MS法人から請求書を出すようにしましょう。

まとめ

一般の業種に比べると税務調査で見られる項目は限られていますが、それだけに一度疑問を持たれると、かなり突っ込んで問われます。
クリニック・薬局によっては、上記以外の論点がある場合もありますので、日頃から専門家に相談し、対策を整えておきましょう。