理学療法士・看護師などの医療職を採用するためには ~有給休暇の買い取り編~

今回は、前回の記事の

2.2年以内に有給休暇を使いきれなかったが、使えなかった分を買い取ってもらえなかった。

について書いていきたいと思います。

有給休暇の買い取りは駄目じゃないの?

有給休暇がどのような制度かについて、厚生労働省のFAQページには次のように書かれています。


「年次有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される休暇のことで、「有給」で休むことができる、すなわち取得しても賃金が減額されない休暇のことです。」


つまり、体を休めることが目的ですので、「休まないからその分を給与で支給」というお金で買い取ることを想定していません。原則、有給休暇の買い取りは禁止されています。

とはいえ、有給休暇は1回繰り越して2年分貯めておくことができますが、それ以上は使わないと時効で消えてしまいます。

また、退職した場合も、残っていた有給休暇は全て消えてしまいます。

これらはスタッフさんにとって不利になってしまう為、上記の2つのケースについては例外的に買い取りが認められています。

また、法律上の義務である有給休暇以上の独自の有給休暇(リフレッシュ休暇など)を付与している場合は、その独自の有給休暇部分も買い取りが認められています。

まとめますと、買い取りが可能なケースは、

・時効(2年)で消えてしまった有給休暇

・退職時に残っている有給休暇

・独自に与えている有給休暇

の3つのケースとなります。

あくまで「買い取ってもいいよ」ということですので、経営者側に買い取る義務はありません。

しかし、買い取り制度がないと、

・消える前に駆け込みで無理に全て使う。

・忙しくて使い切れなかったときに不満につながる。

・退職時にまとめて使う場合、退職時期が延び、クリニックの社会保険料の負担が多くなる場合がある。

など、経営者にとってデメリットとなることもあります。

義務ではありませんが、近年では買い取り制度を導入しているクリニックは確実に増えています。

支出は増えてしまいますが、給与が増加した場合の税額控除制度もありますので、うまく利用しながらスタッフさんのモチベーションを高める為にも是非導入したい制度です。

導入する場合は、就業規則に定めておく必要があります。

いくらで買い取ればいいの?

では、いくらで買い取ればいいのでしょうか。

実は、元々買い取りを想定した制度ではない為、買い取る金額は法律上決まっておらず、クリニックの自由となっています。

一律で1日10,000円とすることも可能です。

ただ、根拠が無いと、これもまたスタッフさんの不満につながりやすいところですので、有給休暇を普通に使用した場合と同じ金額にしておくのがおすすめです。

有給休暇を普通に使用した場合の計算方法については、労働基準法第39条で、
「通常の賃金」、「平均賃金」、「標準報酬月額÷30」の3つから選ぶようになっています。

それぞれ詳しく見ていきます。


1.通常の賃金

月給の場合は、「月給÷1ヵ月の所定労働日数」
例えば、月給22万円、1ヵ月の所定労働日数22日の場合、

22万円÷22日=10,000円/日

パートさんなど時給の場合は、「時給×1日の所定労働時間」
例えば、時給1,500円、1日の所定労働時間6時間の場合、

1,500円×6時間=9,000円/日

となります。


2.平均賃金

「過去3ヶ月間に支払った賃金の合計÷その3か月間の暦日数
例えば、4月~6月の3ヵ月間で910,000円払っている場合、

910,000円÷(30日+31日+30日)=10,000円/日

となります。

パートさんなど勤務日数が少ない方は、暦日数で計算すると金額が低くなり過ぎてしまう為、

・過去3ヶ月間に支払った賃金の合計÷その3か月間の暦日数
・(過去3ヶ月間に支払った賃金の合計÷その3か月間の勤務日数)×0.6

のいずれか大きい方で計算します。

この3ヵ月間は直近の給与の締め日からさかのぼります。

例えば、15日締めで、6/20に有給休暇を使用した場合は、
4/15締めの給与~6/15締めの給与の3ヵ月間で計算します。


3.標準報酬月額÷30

こちらは、労使協定がある場合に限定されますが、協会けんぽの標準報酬月額(令和6年3月分~)を使用して計算することも可能です。

例えば、東京都で、月給が295,000円の場合、

標準報酬月額300,000円÷30=10,000円

となります。


上記の1~3、どの計算方法でも良いのですが、より実態に近い、「1.通常の賃金」が一番納得感もあり、理解を得やすい為おすすめです。

まとめ

クリニックの採用難の時代がきています。

法律上最低限のことだけやっていては、医療スタッフから選ばれるのが確実に難しくなっています。

選ばれる為には何が必要か、専門家と相談しながら、必要なものを率先して導入していきましょう。