医療法人にできる限り財産を残したいけど・・・
医療法人は個人事業での所得税・住民税(最大55%)と比べて税率がかなり低い(利益の金額や自費診療収入の割合にもよりますが、実質25%~30%程度の場合も多い)ことから、節税を中心に考え医療法人を設立する場合も多いと思います。
役員報酬で医療法人の利益を全て払い出してしまうと、結局個人で所得税・住民税が課され、節税効果を考えるとあまり得策ではありません。
持分なしの基金拠出型医療法人の場合、将来の相続財産としては「設立時の基金の額面金額」で固定されます(持分あり医療法人や株式会社などのように利益が株価に反映されない)ので、医療法人に財産を残せば残すほど相続税の圧縮にもなります。
上記の節税効果と併せて考えると、役員報酬は必要な分に抑え、出来る限り医療法人に財産を残していることも多いと思います。
そうすることによって
・将来子供に、財産が多く残った医療法人を引き継いでもらう。
・子供が引き継がない場合でも、役員退職金として役員報酬よりも低い税率で個人へ払い出す。
など、状況に応じた将来の選択肢を増やすことができます。
そもそも医療法人は非営利なのに株式投資をしてもよいの?
前置きが長くなってしまいましたが、このように医療法人に財産を多く残す場合、多くの方が「銀行に預金として置いておいても金利はほとんどつかないから、現状使う予定のない資金は株式投資などで運用したい」と思うでしょう。
医療法では、株式投資などの資産運用を禁止する規定はありません。
しかし、医療法人の定款をみると、
「資産のうち現金は、日本郵政公社、確実な銀行又は信託会社に預け入れ若しくは信託し、又は国公債若しくは確実な有価証券に換え保管するものとする」
と書いてあります。
厚生労働省のモデル定款がそうなっているからなのですが、もし株式投資などに関して指導が入るとすれば、上記の定款が根拠になります。
「日本郵政公社」「確実な銀行」「信託会社」「国公債」はそのままですが、「確実な有価証券」とは何か。
具体的に規定されているわけではなく国内限定とも書いてありませんので判断が難しいですが、少なくともリスクの高いもの、例えば、
・外国の株式、社債、投資信託、投資ファンドなど(仮に格付けが高くても為替リスクがある。)
・国内でも格付けが低い株式、社債、投資信託など
は避ける方が無難です。
逆に考えると、
・定款に直接記載されている「国公債」(「国内の」と限定されていない為、外国のものも含みます。)
・国内の格付けが高い株式、社債、投資信託など
であれば、定款違反にならないはずです。
ただし、医療法人運営管理指導要綱では、「売買利益の獲得を目的とした株式保有は適当でない」
ともあります。
医療法人に非営利性が求められていることを考えると当然ともいえます。
その為、格付けの高い株式であっても、短期での売買は避けるべきです。
長期保有での資産運用を考えていきましょう。
まとめ
医療法人での株式投資などの資産運用は駄目だと思いがちなのですが、そんなことはありません。
格付けも下記サイトなどで簡単に確認可能ですので、うまく活用していきましょう。
https://www.jcr.co.jp/
ただし、都道府県独自の判断で指導が入る可能性も0ではありませんので、実行する前に専門家に相談し、社員総会の議事録・理事会の議事録や資産運用管理規定などを準備しておき、いざというときには反論できるようにしておきましょう。