就業規則は内容が多岐にわたります。
タイトルのように、「この内容は記載して大丈夫?」、「どこまで細かく記載したらよいの?」、など、悩む方も多いと思います。
ここでは、悩む方が多い「服務規程(服務心得)」について見ていきたいと思います。
就業規則は届出義務がなくても作成しないといけない?
どの程度まで記載したらよいか分からないんだけど・・・
服務規程(服務心得)の記載例
就業規則は届出義務がなくても作成しないといけない?
労働基準法では就業規則の届出義務がないクリニック・薬局(常時10人未満)でも、スタッフの管理上、就業規則を作成するケースが増えてきました。
常時10人未満であれば、けっして作成する義務があるわけではないのですが、経営者が必要性を感じて自主的に作成するケースが年々多くなっております。
懲戒解雇、減給などの制裁をするためには、
・就業規則に根拠が記載されている。
・その処分が権利の濫用ではない。
という条件が原則必須です。
たとえば、
・勤務中は私語を慎むこと。
・無断で遅刻をしてはいけない。
なども社会的には当然のことですが、
「就業規則に書いてなかった」
「そもそも就業規則を見たことが無い」
などと言われてしまうこともあります。
そんなことを言うスタッフさんは雇いたくないというのが経営者の本音だと思いますが、面接ではなかなかそこまで分からないもの。
スタッフさんがどんな方でも、それに対応できる就業規則を作成・周知しておくことは、クリニック・薬局・経営者及び他のスタッフさん、ひいては患者さんを守ることにつながり、それが必須の時代となりました。
どの程度まで記載したらよいかわからないんだけど・・・
とはいえ、細かく挙げていくと何十ページにもなってしまいきりがありませんし、重要な事項が埋もれてしまっては元も子もありません。
本当に必要な事項を注意深く検討する必要があります。
クリニック・薬局においては、他の業種と決定的に違う点があります。
それは、他の業種よりも「清潔感」が求められることです。
待合室・診察室・トイレなど施設自体の清潔感はもちろんですが、スタッフさんの清潔感も求められます。
「清潔感」のイメージは人それぞれ異なりますが、下記のような患者さんからのクレームはいまだに多くあります。
ペイシェントハラスメント(他業種でのカスタマーハラスメント)も増えており、患者さんのクレームに全て対応すべきではありませんが、必要な部分は対応していく必要があります。
ペイシェントハラスメントについては、スタッフさんを守るために別途対応マニュアルを作成するとよいでしょう。
1.ピアス、イヤリングが気になる。
ピアス・イヤリングは落とした場合、衛生上・感染対策上もあまり良くないですし、子供や認知症の患者さんが誤飲してしまうこともあり得ます。
また、新型コロナ以降は、手洗いを頻繁にする必要性が生じたことから、ピアス・イヤリングに加えて、勤務中は指輪を禁止しているクリニック・薬局も増えてきています。
就業規則に記載しておくことをおすすめします。
2.ネイルが気になる。
ネイルをしていると爪が長くなりがちです。看護師・理学療法士など、患者さんと直接触れ合う医療職は、爪を伸ばしていると患者さんを傷つけてしまう恐れもありますので、ネイルを禁止しているクリニック・薬局が多いです。
爪が短ければ良いのかというと、「清潔感を欠く」と感じる患者さんも多い為、職種に関係なく、医療事務などを含めて、長さに関わらずネイル自体を禁止している場合がほとんどです。
就業規則に記載しておくことをおすすめします。
3.長髪なのに髪をまとめていない。
男性に短髪を強制することは、男女雇用機会均等法に違反する可能性が高いため、男性に短髪を強制する場合は、女性にも強制しないといけません。そのため、現実的には短髪の強制は困難といえます。
4.金髪のスタッフがいる。
近年は、髪の色を制限することについては、スタッフさんのモチベーションを下げるという理由から、髪色の自由を認めるクリニック・薬局が増えてきています。
とはいえ、派手な金髪や赤など、極端な色にされても困りますよね。
その為、NPO法人日本ヘアカラー協会(JHCA)のレベルスケールを基準にするのも一つの方法です。
レベルスケールはJHCAのホームページからネット注文もできます。価格も高くありませんので、一度購入してみるのも良いと思います。
「完全自由にすると派手な色にされるのでは・・・」と不安を感じる場合は、「JHCAレベルスケール基準で8まで」など、就業規則に記載するとよいでしょう。
5.化粧や香水の匂いが気になる。
匂いについては、本当に人によって感じ方が違い、難しい問題ですので、先生ご自身の意見・他のスタッフさんの意見を踏まえ、慎重に対応を考える必要があります。
就業規則には、3と併せ、「他人に不快感を与える髪型・化粧・香水などをしないこと」などと記載するとよいでしょう。
6.タバコの匂いが気になる。
近年では、労働安全衛生法や健康増進法で受動喫煙の防止が経営者の努力義務となっている為、採用時に「喫煙をしていないこと」を条件に入れるクリニック・薬局が増えてきました。
法律で制限されていること以外については原則経営者側に「採用の自由」が認められており、「喫煙」については制限されておりませんので、採用時に「喫煙をしていないこと」を条件にすることができます。
匂いにも有害物質が含まれているという、「三次喫煙(残留受動喫煙)」という概念も注目されています。勤務中・勤務外を問わず、喫煙を禁止しているクリニック・薬局も増えてきました。
勤務外の喫煙を理由に懲戒解雇できるかについては、弁護士によっても見解の分かれる部分の為、判断が難しい部分ですが、患者さんやタバコを吸わない他のスタッフさんの為にも、できれば記載しておきたいところです。
服務規程(服務心得)の記載例
下記にクリニック・薬局の就業規則の服務規程(服務心得)の例を挙げます。
赤字の部分が前段で触れた部分となります。
・常に健康に留意し、技術の習熟に努め、積極的な態度をもって勤務すること。
・勤務中は、常に清潔な服装・身だしなみに留意し、他人に不快感を与える髪型・化粧・香水又はこれらに準ずるものをしないこと。
・髪の色については、 NPO法人日本ヘアカラー協会(JHCA) のレベルスケールのレベル8程度までであれば自由とする。
・勤務中は、ネイル・マニキュア・ピアス・イヤリング、指輪、サングラス、又はこれらに準ずるものを身につけないこと。
・勤務中及び勤務外において喫煙をしないこと。
・患者・クリニック(薬局)・職員の名誉・信用を傷つける行為をしないこと。
・業務上知り得た秘密を守ること。
・業務上の権限を越えた行動をしないこと。
・業務に関し、第三者から不当な金銭・物品を受領し又は要求・約束をしないこと。
・勤務時間外において他に就業する場合は、事前に所定の内容を届け出ること。
・勤務時間中は、許可なく私用外出をしないこと。
・クリニック(薬局)内での宗教・団体・政治活動は院長(薬局長)の許可なくしないこと。
・他人の業務を妨げないこと。
・始業時刻には業務を開始できる体制を整えること。
・勤務時間中に過失があったときは、速やかに院長(薬局長)に申し出ること。
・クリニック(薬局)の施設・備品は細心の注意をもって取り扱い、業務以外の目的で使用しないこと。
・クリニック(薬局)の物品は、院長(薬局長)の許可なく使用せず、また、持ち出さないこと。
・勤務時間中は、私的な雑談、私的な書籍の閲覧、私的な携帯電話の使用、又はこれらに準ずる私的な行為を行わないこと。
・患者に対して、信念と親切をもって処遇するとともに、その心情を理解した上で、応対に細心の注意を払い、患者及びその家族の安心を信頼を損なうような言動を慎むこと。
・勤務や自身の状況(住所変更など)に関する届出を怠り、虚偽の届出をしないこと。
・上記服務規程(服務心得)のほか、当クリニック(薬局)の就業規則その他の規則に違反する行為をしないこと。
まとめ
上記に挙げた服務規程(服務心得)は一例ですので、クリニック・薬局によっては不要な部分、足りない部分もあると思います。専門家と相談しながら、自院・自局にあった就業規則を練っていきましょう。
また、一度作成して終わりではなく、時代(法律)やスタッフさんの意識の変化を踏まえながら、その都度改定していくことが大切です。