人材紹介会社に頼んでるのに理学療法士・看護師が見つからない・・・
2020年の新型コロナ以降、クリニックにおいて理学療法士の採用が難しい状況が続いていましたが、ここ1年ほどでさらに状況が悪化し、退職者が出た後、代わりの人が見つからず、整形外科において運動器リハビリテーションの施設基準が下がってしまったというケースもかなり増えております。
クリニック・薬局における医療スタッフの人材不足の記事でも一部書きましたが、理学療法士や看護師については、訪問看護事業所や介護系の施設(訪問リハビリテーション要員や訪問看護要員)に流れているという現状があります。
実際に訪問看護事業所や介護系の施設の求人を見てみると、一般の整形外科クリニックのよりも給与が高いところが多く、給与が高い順に求人を見ていくと、訪問看護事業所や介護系の施設がどうしても先に目につきます。
給与が全てではありませんが、できれば少しでも給与が高いところで勤めたいと思うもの。
理学療法士や看護師という医療資格者であればなおさらです。
でも、やはり出せる限度はあり、他の給与が高い求人に合わせて上げるわけにはいかない、という場合も多いと思います。
このような状況で、一般のクリニックが理学療法士や看護師をうまく採用するには、どうするのがよいのでしょうか。
有給休暇・育児休業・介護休業・福利厚生の充実
実際に理学療法士や看護師に聞いてみた不満として下記のようなものがあります。
理学療法士看護師に特有の理由というよりは、他の職種でも当てはまるものも多く、他の職種を考える際にも参考になると思います。
これらの不満を完全ではないにせよ、ある程度解消できれば、少し給与が安くても働きやすいクリニックを選んでくれる可能性も高くなります。
良い職場環境にし、求人の際にアピールできるようにしていきましょう。
1.有給休暇が自由に取れない。
2.2年以内に有給休暇を使いきれなかったが、使えなかった分を買い取ってもらえなかった。
3.数分遅刻したら遅刻分を給与から引くくせに、残業代は出ない。
4.就業規則を見せてもらったことがない。
5.男性が育休の申請をしたら文句を言われて取らせてもらえなかった。
6.親の介護で介護休暇を取ったが無給だった。
7.両親や祖父母が亡くなった為休んだところ欠勤扱いとなった。
8.積極的に研修に行きたいが、有給休暇以外に研修の為の休暇が欲しい。
9.患者さんから暴言を吐かれたり暴力を振るわれたが、院長は何もしてくれなかった。
今回は1を取り上げます。
2~9については、それぞれ別記事で取り上げたいと思います。
1.有給休暇が自由に取れない。(取ろうとすると嫌な顔をされる。)
経営者は有給休暇を原則拒否できません。
拒否した場合、法律的には、違反するとスタッフさん1人につき「6カ月以下の懲役または30万以下の罰金」という罰則付きです。
有給休暇については、経営者とスタッフさんとの間で認識が異なる場合が多く、トラブルになることが多い制度です。
しかし、うまく運用すればスタッフさんのモチベーションの向上にもつながり、定着率も上がります。
お互いに正しく理解し、うまく運用していきましょう。
付与日数などは厚生労働省のページが分かりやすい為、省略します。
ここでは、それ以外の基本的な制度について解説していきます。
(1)時季変更権
有給休暇はスタッフさんの権利ですので、経営者の許可も不要で休暇の理由も言う必要もなく、原則拒否できません。
ただし、経営者には時季変更権というものがあり、「事業の正常な運営を妨げる場合」には、
他の日に変更させることができますが、
・担当患者さんの予約が入っている。
・休診日明けの午前中は忙しい。
といった理由では時季変更権は認められません。
(2)事前申請は義務化できるのか
とはいえ、パートさんも含めシフトで回しているクリニックがほとんどだと思いますので、前の日に「明日休みます!」と言われても困りますよね。
有給休暇は拒否できませんが、「クリニックの業務を正常に回す」ために、事前申請を義務付けることは違法ではありません。
「何日前まで」など、法律では具体的な期限は定められていない為、経営者が自由に決めていい部分になります。
ただし、「1ヵ月前まで」など、あまり長い期間にすると、逆に有給休暇を使いにくくなってしまい、有給休暇の使用を妨害しているとみなされかねません。
長くても「2週間前」程度におさえておくのが無難です。
ただし、申請期限を過ぎたという理由のみで有給休暇の使用を拒否することは認められないため注意が必要です。
あくまで経営者に認められているのは、 「事業の正常な運営を妨げる場合」に他の日に変更させること、という点に留意する必要があります。
ルールとして義務付けることは可能だが、ルールを破ったからと言って拒否はできない。
少し納得がいかないかもしれませんが、直前に申請することへの抑止力にはなりますので、是非事前申請については、就業規則に記載しておくことをおすすめします。
(3)当日申請・事後申請があった場合どうすべきか
急な病気で休む場合などの当日申請については、厳密には事後申請となりますが、ここでは、当日申請は「休む当日に申請」、事後申請は「休んだ日の翌日以降の申請」として別なものとして扱います。
当日申請は、代わりの人が見つからず診療できないなどの「事業の正常な運営を妨げる場合」に当てはまらない場合は、拒否することや時季変更権を使うことが不当と判断されるケースもありますが、
「事業の正常な運営を妨げる場合」 に当てはまれば、拒否したり時季変更権を使うことが可能です。
欠勤した後で後日有給休暇へ変更したい、などの申し出は事後申請となり、事後申請は拒否しても違法ではありません。
しかし、病気の場合、拒否してもしなくても休むことに変わりはありません。
・有給休暇として給与は満額支給する。
・欠勤として給与から欠勤分を引く。
のどちらかを選択するだけですので、勤務意欲の低下のリスクを考えると
・急な病気での当日申請
・欠勤した後での有給休暇への変更(事後申請)
については認めてあげた方がよいでしょう。
逆に、無断欠勤した後、有給休暇に変更したいなどの申し出は認める必要はありません。
就業規則に条件付きで認める記載をしておきましょう。
例:
当日申請及び事後申請については、原則として認めない。ただし、次に掲げる理由により事前申請ができなかった場合には認める場合がある。ただし、欠勤日以降最初に出勤した日から3日以内に届け出ること。
・病気などのやむを得ない理由により事前申請ができなかった場合。
・上記に準ずるやむを得ない理由により事前申請ができなかった場合。
(4)有給休暇の計画的付与
有給休暇は基本的にはスタッフさん本人が自由に使えるものですが、有給休暇の計画的付与という制度があり、クリニック側で有給休暇日を指定することが可能です。
ただし、年間5日間はスタッフさんが自由に使えるようにするしないといけません。
2019年4月から始まった、(5)の年間5日間の取得義務と整合性をとり、対象者や日数を
・年間10日以上付与される人が対象。
・計画的に付与する日数は年間5日間。
としているクリニックが多くなっております。
計画的付与については、個人ごとに指定、クリニック全体で指定のどちらも可能ですが、実際に運用を始めてみると、中途入社の方の取り扱いや、途中で指定日を変えたくなったなど、細かい部分で疑問が出てくるでしょう。
また、導入にあたっては、就業規則への記載、労使協定の締結が必要となります。
就業規則に記載されていなかった場合、1件につき「30万円以下の罰金」という罰則つきです。
始めるにあたっては、社会保険労務士などの専門家によく相談してから始めることをおすすめします。
(5)年間5日間の取得義務
日本は有給休暇の取得率が他国と比べて極めて低いことから、2019年4月に、スタッフさんに有給休暇を5日間取らせることがクリニック側に義務付けられました。
法律的には、違反するとスタッフさん1人につき「30万以下の罰金」という罰則付きです。
もし、10人のクリニックのスタッフさんが全員年間5日間を取得していなかった場合、
30万円×10人=300万円
の罰金になる可能性があります。
必ず守るようにしましょう。
一般的には、(4)の有給休暇の計画的付与と併せて、年間5日間取得を満たしているケースが多くなっております。
指定する日についてスタッフさんの意見に従う義務はありませんが、意見を聴いた上で尊重する必要はあります。
スタッフさんのモチベーションを下げない為にも、必ず意見を聴いた上で決めましょう。
(6)時間単位での付与
有給休暇は原則1日単位で、スタッフさんが希望する場合は半日単位も可能ですが、クリニック側は半日単位を認める義務はありません。
ただ、現実的には半日単位までは認めているケースが多いのではないでしょうか。
半日単位付与までは、特に手続きをする必要がなく導入が可能ですが、時間単位の付与については下記のように法律で明確に規定されています。
・年間5日分まで。
・就業規則への記載と労使協定が必要。
管理も煩雑になることから、導入しているクリニックはまだまだ多くありません。
スタッフさんの需要があるかについても、年齢構成によって差があると思います。
スタッフさんの意見も聴きつつ、社会保険労務士などの専門家とよく相談してから導入するようにしましょう。
まとめ
概要のみの駆け足でのご説明になりましたが、有給休暇という制度は、うまく使えばスタッフさんの満足度の向上にもつながり、優秀なスタッフさんの定着率の向上にもつながります。
今後は、法律で定められている最低限のこと以上が求められてくる時代です。
法律の義務だから、というだけでなく、専門家と相談しながらうまく活用していきましょう。